「記憶」ではなく「印象」に残す授業

元塾講師の綴る、実践に基づいた教育論。日本の教育を、より良くするために。

当サイトの記事は、書籍のように最初から通読いただくことを想定しております。

もしよろしければ、ぜひ最初からご覧いただければと思います。

目次

最初の記事

子供は「自分ってすごい!」と感じたい ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【07節】

教育において最も大事なことは、

 子供に「自己肯定感」を持たせることである

という点は、以前お話ししました。

 

ここからさらに一歩進んで、

肯定感から優越感を少し感じさせることも、時には大切です。

(優越感ばかりでは、それはそれで調子に乗ってしまうかもしれませんので、

あくまで「時には」ですが。)


私自身、授業において、生徒に優越感を感じさせることも意識していました。


たとえば、学習指導要領(平成20年6月)によれば、

小学3年生で分母が同じ分数の足し算引き算を勉強し、

小学5年生になると、分数×整数の計算を勉強します。

 

もちろんこの通りに勉強を進めればいいのですが、ここで少しだけ、生徒に優越感を

持たせる工夫をします。

 

小学3年時点では、すでに整数×整数の掛け算は勉強しており、

「掛け算とは、”かけられる数”が”かける数”だけあれば、全部でいくつか」

を考えることだということはわかっています。

 

ですから、分母が同じ分数の足し算を勉強して理解できている生徒であれば、

「分数×整数」くらいの計算は、図も使って説明すれば理解することができます。

(もちろん、ここで無理に難しい問題を理解させる必要はなく、分数×整数のさわり

だけを紹介できれば十分です。)

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そして、簡単とはいえ分数×整数の問題を生徒が理解できれば、

「分数の掛け算は5年生が勉強する内容だよ。理解できたなんてすごいね。」

とほめてあげることができます。

(もし理解できないようであっても、決して悲観せず、

「これをちゃんと勉強するのは5年生になってからだから大丈夫だよ」

と、決して生徒が不安にならないようフォローしてあげます。)

 

そうすれば、言わずもがな、生徒はうれしくなり、

「自分はすごい!」

と感じさせてあげることができます。

 

「自分ってすごい!」と感じた授業のことは、きっと印象に残るでしょうし、

特に例に挙げた分数の計算であれば、「絵にかけばわかるんだ」ということを

生徒により感じてもらうことができます。

 

次の記事

生徒のモヤモヤを解消し、”!”を生み出す ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【08節】 - 「記憶」ではなく「印象」に残す授業

 

子供は型にはまらないことが好き ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【06節】

子供は普段、学校や家庭で、型にはまった生活を強いられる場面が多いです。

例えば、

  1. 時間の枠:チャイムが鳴ったら席に着きなさい。
  2. 行動範囲の枠:ここから先へは入ってはいけません。
  3. ノートの枠:罫線からはみ出ないよう、きれいに描きなさい。

これらの「枠」は、しつけの一環ですし、間違いなく必要なものです。

しかし、型にはまることばかり強要しては、子供の創造性を発揮させ、伸ばすことが

できませんし、なにより生徒がワクワクできません。

 

ですから、授業の中でも、許される範囲で、あえて枠から外れた授業をすることが、

生徒にとっても先生にとってもメリハリがつき、印象付けるためにも効果的だと

考えています。


ここで一つ、私が塾で行っていた、少し枠から外した授業を紹介しましょう。

 

場面は、小学2年生に掛け算の九九を教えるところです。

最初に掛け算の考え方を教えるとき、例えば3の段の九九を一緒に考えるときは、

枠から外す必要はなく、まずは一般的な学習参考書に書いてあるような方法で

3の段を一通り導出します。

 

そして、「さんいちがさん、さんにがろく、・・・」と声に出して繰り返し読んで、

覚えてもらうこともセオリー通りです。

 

そのうち、3の段、4の段、5の段と覚えることが増えてくると、それまでに習った

2の段から5の段までを復習することが必要になります。

 

ですが、以前と同じようにきれいに九九を黒板に書いて復習するのでは、

生徒としても「またか・・・」という気分になり、面白くありません。

 

そこで、

「先生がこれから九九の問題を次々に黒板に書いていくから、すぐに答えてね」

と、ゲーム感覚で九九の問題を出していきます。

 

ここで、決して九九を整列してきれいに黒板に書きません。

黒板内のあちこちに、ランダムに、あえて文字を傾かせながら、

生徒が1問答えるごとに次々と次の問題を書いていきます。

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答えてもらった答えは黒板に書きませんし、生徒はノートに何も書かず、

口頭で答えるだけでいいです。問題だけを次々と生徒に”浴びせる”のです。

 

すると、先生がランダムに次々と書く九九の問題に食らいついていこうという、

一種の競争心理を働かせることもでき、生徒は乗ってきます。

 

もし間違ったら、「そうだっけ?」と確認し、ノートを見直すなどして正しい答えを

答えてもらいます。

一度間違った問題は先生が覚えておき、繰り返しその問題を出します。

 

これを繰り返し、一度間違った問題もスラスラと正しい答えが言えるようになれば

九九の復習としてはOKです。


こうした工夫を授業に取り入れることで、生徒は授業に飽きることなく、

ゲーム感覚で楽しく復習することができますし、先生としても、短時間で多量の

復習を効率よく行うことができ、生徒の弱点克服も同時に可能になるのです。


重要なことは、最初に基本を理解させるところでは、やはり枠にあてはめて教え、

基本を押さえたうえで、応用・復習をあえて枠から外して行う、ということです。

 

基本を押さえてもらう時には、枠にはめるというよりは、やはり教える上での

セオリーがありますので、それはそれとして抑えておくことも大切で、

枠にはめることと、枠から外すことのバランスおよびギャップが、

生徒への印象につながります。

 

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子供は「自分ってすごい!」と感じたい ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【07節】 - 「記憶」ではなく「印象」に残す授業

 

子供はきれいな絵が好き ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【05節】

特に算数や数学の授業では、

「わからなかったら絵をかいて考えよう」

ということを言う先生は多いのではないでしょうか。

 

それはまさにその通りです。

 

一般的に考えられている、「絵を描いて考えることの重要性」は、主に次の2点では

ないでしょうか。

  1. 人間が頭の中で一度に考えられる量には限界があります。絵を描き、考えていることを絵の中に書き込んでいくことで、頭を混乱させずに整理することができます。
  2. 絵を描くということは、本人の頭の中でイメージされているものを紙に転写する作業です。絵を描くことで、自らが頭の中で考えていたことを整理し、客観的にとらえることができます。

さらに、「絵を描いて教えることの重要性」は、次の通りでしょう。

  • 人間は何かを考えるとき、その対象をイメージしながら考えます。頭の中で思い描いているイメージが先生と生徒の間で異なっていれば、先生がわかりやすく言葉で教えたつもりでも、生徒には正しく伝わりません。そうした両者のズレを防ぐために、絵を描いて伝えることが大切です。

さて、「生徒も先生も絵を描くことが重要」という点はご理解いただけたかと

思いますが(むしろ、「いまさら何を・・・」と思っていただければ幸いです。)、

加えて「きれいに描く」ということがとても重要です。

 

これは『生徒に正しく物事を伝えるために』というだけではありません。

生徒が簡単には描けない絵を先生が黒板にきれいに描くと、生徒は驚きと尊敬の目で

先生を見るようになります。こうして心を動かされた生徒は、自然と先生の書いた

絵をマネしてノートに写してみようという気になることが多いですし、それ以降も、

絵をかいて考える問題を解くことが面白くなります。

 

生徒の心を動かす絵として特に有効なのは、やはり立体図形でしょう。

2次元の紙に3次元の絵を描くことが、生徒にとっては刺激的なのでしょう。

先生が板書をするたびに生徒がワクワクするようであれば、そのうち生徒も自然と

絵を描くようになると思いませんか?

 

ここで言う「きれいな絵」と言うのは、定規やコンパスを使って

「真面目に正確に描く」

ということではありません。むしろ、フリーハンドで、さらっと、でもわかりやすく

伝わる絵を描くことが重要です。


立体図形など、絵を描くことが苦手な先生は、ぜひ絵を描く練習をして、

生徒に驚きとワクワクを与えてみてください。

 

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また、絵を描くことは、生徒だけでなく先生にとっても大切なことです。

 

生徒には「絵を描いて考えろ」と言っている先生でも、授業中の板書では絵が少ない

こともあります。授業中に描く絵は、生徒の理解を助ける補足と捉えられがちかも

しれませんが、私は授業における絵は、説明の補足ではなく、授業の本質だと考えて

います。

 

説明事項のメインとして絵が存在し、その絵の補足として、文章や式による説明が

ある、といった位置づけです。

 

そうはいっても、私自身、授業中に自ら書いた板書を見直して、絵が少ないと感じる

こともありました。そんな時は「何か絵で表現すべきところがなかったか」を改めて

自らに問い直して、絵を追記していました。

 

イメージとしては、文章や式を用いた説明が半分、絵を用いた説明が半分くらいの

分量バランスがちょうどよいと思います。。

 

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子供は型にはまらないことが好き ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【06節】 - 「記憶」ではなく「印象」に残す授業

 

子供は『図画工作』が好き ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【04節】

学校の図画工作の授業が嫌い、という生徒はなかなか聞かないように思います。

それぐらい、生徒にとって「何かを作る」行為は、楽しいものだということです。

 

特に理科や算数の授業では、「自分で作る」時間を作りたいものです。

 

それは決して、「自分で作る」という楽しい時間を提供したいというだけでは

ありません。

 

自分で作るという作業を経ることで、その経験が「印象」として頭に残りやすく

なり、授業を通して覚えてほしい大切なことを覚えることも可能だからです。

 

 

ここで一つ、私自身が小学生だった時に「印象」に残っているお話をしましょう。

 

 

小学生の算数では、面積や立体の単位を勉強しますが、それら単位の換算が苦手な

生徒は多いです。

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また、単位の換算は図形・数量の問題を解く上での基礎であるため、

暗記に頼る先生・生徒も多いかと思います。

 

決して暗記が悪いとは言いませんが、暗記となると、時間が経つにつれ、

どうしてもうっかり間違ってしまうこともあります。

 

特に私は、こうした暗記が大の苦手でしたので、大変苦労しました。

 

例えば、「1リットル=1000cm3」という換算ですら、暗記には頼りたくなかった

(頼れなかった)のです。

 

そこで私は、「1リットル」を体感として覚えるために、

10cm×10cm×10cm(つまり1リットル)の立方体をつくるよう勧められました。

 

そこで、厚手の方眼紙を買ってきて、そこから立方体の展開図を切り出し、

自分で1リットルの立方体を作ったのです。

そして「おお、これが1ℓか!」とそれをまじまじと見つめたのです。


それ以降、「1リットルは?cm3」を考える際には、いつもこの自作の立方体を

思い浮かべるようになりました。

 

ただ単に「1リットル=1000cm3」として覚えるのではなく、

「たしか1リットルは立方体で作れたな。手のひらいっぱいに乗るくらいの大きさ

 だったから、1辺の長さは、1cmでも100cmでもなく、10cmだったんだろうな。

 ということは10cm×10cm×10cm=1000 cm3だな。」

というように覚えた(その都度導出する)のです。

 

大人になったいまでも、1リットルと聞くと、昔作った1リットルの立方体が

頭に浮かびます。

 

「1リットル=1000cm3」という式は覚えようとしても覚えられない一方で、

自分で立方体を作り、それを手に持ち、まじまじと眺めた体験は忘れないのです。

 

これこそ、印象に残っている状態なのだと思います。

 

これくらいの単位の換算は暗記で覚えられた、という方であれば、こうした覚え方

は逆にまどろっこしく、難しく感じられるかもしれません。

 

しかし、実際にこうして覚えたほうが覚えやすい人もいるということを知っておいて

いただきたいのです。もし生徒が単位換算の暗記で躓いているようでしたら、

このようにイメージで覚える方法を紹介する意味でも、実際に作れるものは作って

みてもらうことも、一つの手だと思います。

 

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子供はきれいな絵が好き ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【05節】 - 「記憶」ではなく「印象」に残す授業

  

子供は「演じること」が好き ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【03節】

「演じる」というのは、わかりやすい例は幼児期に見られる

「ごっこ遊び」のことです。

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“ふり”をすることは、自己を残したまま他人になりきることであり、

その楽しみは未熟な自己から出たり入ったりすることにあります。

 

人間発達学では、

「児童期には、象徴(言葉)を駆使する能力が飛躍的に高まってくるが、それが<演じる>遊びにも反映され、<歌う><語る><奏でる>ことが<演じる>遊びの主要な形式となってくる。」

「さらに、演じられたパフォーマンスに対する他者の評価が動機の重要な部分を形成するようになる。」

とされています。

この「演じる」という要素を、授業に取り入れることはできないでしょうか。


取り入れるといっても、それほど難しく考える必要はありません。基本的に子供は

大人の真似事が好きです。例えば、お父さんが車を運転していれば子供も運転して

みたいと思いますし、お母さんが料理をしていれば、子供も料理を手伝いたいと

言うでしょう。

 

授業でも同様で、特に小学生くらいの生徒は、先生と同じように、黒板やホワイト

ボードに何かを書きたい(詳しく言うと、先生と同じように、自分の考えを伝える

手段として、黒板やホワイトボードを使ってみたい)ということがあります。

(特に活発な子供に顕著です)

 

そうした機会をチャンスと捉え、生徒の希望を受け入れてみましょう。

つまり、生徒に自由に板書させ、考えを説明してもらう、さらには、その間先生は

生徒の座っていた椅子に座り、生徒役と先生役を逆転してみるのです。

 

こうした授業における工夫も、学習内容を子供の印象に残すうえで、効果的な方法

の一つです。理由は主に3つあります。

 

  1. 子供は「先生気分」になっているので、自分の考えを何とか整理して、生徒役の先生に伝えよう、わかってもらおうと、本気で考えようとします。
  2. 受け身の姿勢から、突然能動的な姿勢への転換が求められるため、子供の気持ちにメリハリをつけることができます。
  3. 人に教えることが何より勉強になる、という重要なことを、子供にも少しずつ経験させることができます。

 

これら3つが重なり合って、子供の印象に残る授業にすることができます。

 

当然ですが、先生役となった生徒が、上手に先生役を全うできなくても問題ありません。

 

逆に、うまく説明ができた生徒には、目いっぱいほめた後に、生徒役の先生が、

先生役の生徒にさらに難しい質問をして、生徒を少し困らせるくらいがいいで

しょう。すると先生役の生徒は、質問に答えようと必死で考えます。先生として

振る舞っているのですから当然です。しかし、年上の生徒の難しい質問にはなかなか

答えられず詰まってしまいます。

 

そこが生徒役と先生役が再度交代し、普段の授業に戻る瞬間です。

その後、先生が生徒役として自ら質問した問題を、生徒に解説します。

 

こうすることで、難しい問題に対しても、生徒に本気で考えさせることができます

し、最終的には、先生としての立場も守ることができるのです。

 

私自身、この手法を実際に授業で使うことがありました。

生徒に問題を解いてもらい、その解答・考え方を説明してもらう際に、

生徒に先生が使っているホワイトボードに書いてもらい、私は生徒が座っていた机に

座り、先生役の生徒の説明を生徒役になり聞くのです。

 

すると生徒は、俄然やる気になり、先生のようにうまく説明しよう、綺麗に絵を

描こうとしながら、先生役を演じます。生徒が自分の考えを伝える訓練として非常に

有効だと感じていましたし、生徒本人もイキイキしながら先生役を全うしようとして

いたことが印象的です。

 


ただし、この方法を使うのは、生徒が自ら「ホワイトボード(黒板)に書きたい」と

言ってきたとき、もしくは、生徒に何かを説明してもらう時に、

「ホワイトボードに書いて説明してみる?」

と軽く質問してみて、生徒がその気になった時だけにしましょう。

 

特におとなしい生徒は、自分の席に座って先生の話を聴いていたい場合もあります。

そのような生徒にまで、こうした方法を強要してしまうと、余計な負担をかける

ことになってしまいます。

 

こうした工夫の1つ1つは、何が何でも授業で利用しなくてはならないことでは

なく、生徒と場面に合わせて、適宜選択して使えばいいのです。

生徒一人一人の性格に合わせて授業を進めることで、生徒に余計な負担をかける

ことがないよう注意しましょう。

 

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子供は『図画工作』が好き ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【04節】 - 「記憶」ではなく「印象」に残す授業

 

子供は競争が好き ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【02節】

子供は競争が好き、という点については、多くの方に同感いただけるかと思います。

まずは「競争」を授業に取り入れることを考えてみましょう。

 


そもそも、競争の効用とは、いったいなんでしょうか。

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以前テレビで、むやみに生徒間に順位をつけないように、例えば運動会の徒競走で

みんなが手をつないで並んでゴールするシーンが映し出されていました。

個人的には非常に疑問に感じる光景でしたが、それはそれで、生徒間に差別を生みた

くない、運動が得意な子には苦手な子に対する優しさを持ってほしいなど、学校の

先生なりの考慮があるのでしょう。

 

ただ一方では、競争を通して、もっと上に行きたい、負けたくない、という欲を

生徒自身の内側に生むことも重要な要素だと思いますし、そういった欲から人間は

自分を成長させることができるのです。

 

むやみに何でもかんでも競争を取り入れる必要はありませんが、子供の闘争心に

火をつけるため、適度に生徒を競争に巻き込むことも必要なことだと思います。

 

では、授業に「競争」を取り入れるには、どのような方法が考えられるでしょうか。

 

まず、授業における「競争」の形態として考えられるものを考えてみましょう。

これは、「生徒の競争相手になりうる者は誰か」ということにもなります。

  • 周りの生徒との競争
  • 生徒本人の過去との競争
  • 先生との競争
  • 時間との競争
  • 生徒自身の理想との競争

周りの生徒と競うというのは、最もわかりやすいと思います。

テストの点数や偏差値、問題を解くスピードなどを、他の生徒と比べることです。

 

しかしこの競争は、どちらかというと勉強が得意で、

「自分はやればできる」

と考えられている生徒において有効な方法だと思います。

 

逆に勉強が苦手な生徒が、自分よりも勉強が得意な別の生徒と比較され、

「もっとがんばって追いつこう。追い抜こう。」

と言われたところで、生徒本人の中に

「よし、がんばろう」

という気持ちが生じることは、なかなか考えにくいものです。

 

むしろ、

「自分は周りの子より成績が悪いんだ」

という点を意識付けてしまう可能性もあります。

 

以前にも述べましたが、「自己肯定感」を植えつけることこそ先生の仕事であり、

逆に「自己肯定感」を削ぐような言動は極力避けなければなりません。

 

周りの生徒と比べるのは、方法としては簡単なのですが、あまり安易に用いてよい

方法ではないのです。


次に、生徒本人の過去との競争というものがあります。これは、

「前回70点だったから、今回は80点を目指そう」

「前回10分で解けた問題を、今日は8分で解いてみよう」

といったものです。これなら、その生徒の学力レベルにかかわらず、広く使える競争

です。自分自身との競争は、生徒自身、自らの成長を感じやすい方法だと思います。

 

また、生徒本人も、「前回の自分よりも絶対に良い成果を出そう」という気持ちが

自然と芽生え、目の前に課題に対し本気で取り組みやすくなります。

 

また、「先生と生徒の競争」という形態も考えられます。特に個別指導塾では、生徒

が授業中に競う”他人”は先生しかいません。この、「先生が競争相手になる」という

選択肢は、ぜひ有効に活用していただきたいと思います。

例えば、こんな競争が考えられます。


国語:

  • にんべんの付く漢字を沢山挙げたほうが勝ち。(数では先生が勝つかもしれませんが、先生が思いつかなかった漢字を生徒が思いつくことはよくあります。)
  • 音読は生徒と先生が1文ずつ交互に読む。(勝敗はありませんが、先生のように上手に、つかえずに読みたい、といった競争意識を、自然と生徒の中に生み出すことができます。)

算数:

  • 異なる立方体の展開図を沢山書いた方が勝ち。(例えば、生徒は立方体の展開図が全部で11種類もあるとは思っていないことが多いです。競争とは言っていますが、生徒が頭の中で立体図形を精一杯想像して考えている時間が大切ですので、その時間を十分取れるよう、先生は配慮しましょう。)

 

ただし、当然先生が圧勝してしまうような競争では生徒も乗ってきません。生徒が、

「この競争なら、ひょっとしたら先生に勝てるかも」

と生徒に思わせられるような競争がちょうどよいです。生徒は競争となると、俄然

やる気を発揮します。生徒のやる気を引き出すうえでは、先生が

「真面目に考えて」

と言うよりも、ずっと効果的です。

 

このほかにも、いろいろな競争が考えられます。

  1. 制限時間内に何問解けるか。(時間との競争)
  2. ケアレスミスさえしなければ100点が取れる小テストを作成し、必ず100点を取ることを目指して問題を解く。(理想の自分との競争)

どの競争が好ましい、といったことはありません。

授業の展開、生徒の個性に合わせて、さまざまな競争の要素を授業に適宜取込んで

頂ければよいのです。そうやって生徒を飽きさせないということも、授業における

先生の大事なスキルの一つです。

 

次の記事

子供は「演じること」が好き ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【03節】 - 「記憶」ではなく「印象」に残す授業

 

生徒の印象に残すには ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【01節】

第2章ではNLP理論に基づいた生徒とのコミュニケーションの取り方、

そして第3章では「正しい教え方」について紹介してきました。

 

この2つの土台ができていれば、もう先生としての基礎はバッチリでしょう。

繰り返しになりますが、第2章、第3章の内容を理解し、生徒との良好な関係を

築き、「教える」ということに対する基本的な考え方、スキルを身に着けることが、

まずなにより大事です。

 

どれほど重要かというと、第2章の内容が5割、第3章の内容が4割、

そしてこれから紹介する第4章の内容:1割、といったところでしょうか。

 

下図を改めて見直していただければと思います。第2~3章で「いい先生」として

の土台を固めた上で、あと1割、ちょっとした工夫をして、「印象に残る授業」を展開

することが目的です。

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さて、いよいよ本題である「生徒の印象に残る授業」の作り方について話をしたい

と思います。

 

とはいっても、これは第2章、第3章で紹介した内容に比べればそれほど難しいこと

ではありません。ちょっとした工夫を授業中に取り入れることで可能になると考えて

います。


第2章で、印象に残すには、心に何かを残す、感情を高ぶらせることが必要だと

お話ししました。

 

 

では、心に何かを与える、とは、いったいどうする事なのでしょうか。

 


それは、本人の内側から”!”を生み出すことだと思います。

 


「すごい!」

「えっ、そうなの!」

「きれい!」

「負けたくない!」

「(それまでわからなかったことが)わかった!」


こうした感情が生徒の内側から自然と湧き上がってくるような授業であれば、

その瞬間が印象として生徒の脳裏に焼き付き、併せて授業の内容も生徒の頭に

残りやすくなります。

 

なにより、生徒にとっても先生にとっても楽しい授業になりそうです。

さらに都合のいいことに、”!”は子供の方が感じやすいものです。

ですから、子供を相手とする先生が”!”の力を借りない手はありません。


こうした”!”を生徒の中に生み出すために、先生はどんな工夫ができるでしょうか。


そのためには、まず子供の特性を知り、そしてそれを授業に生かすことが必要です。

子供が”!”を感じやすいポイントを押さえ、上手に利用すれば、生徒の印象に残す

授業を展開できるのではないでしょうか。


次節からは、子供の特性と、その授業への生かし方を一つずつ紹介していきたいと

思います。

 

次の記事

子供は競争が好き ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【02節】 - 「記憶」ではなく「印象」に残す授業

 

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