子供は「演じること」が好き ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【03節】
「演じる」というのは、わかりやすい例は幼児期に見られる
「ごっこ遊び」のことです。
“ふり”をすることは、自己を残したまま他人になりきることであり、
その楽しみは未熟な自己から出たり入ったりすることにあります。
人間発達学では、
「児童期には、象徴(言葉)を駆使する能力が飛躍的に高まってくるが、それが<演じる>遊びにも反映され、<歌う><語る><奏でる>ことが<演じる>遊びの主要な形式となってくる。」
「さらに、演じられたパフォーマンスに対する他者の評価が動機の重要な部分を形成するようになる。」
とされています。
この「演じる」という要素を、授業に取り入れることはできないでしょうか。
取り入れるといっても、それほど難しく考える必要はありません。基本的に子供は
大人の真似事が好きです。例えば、お父さんが車を運転していれば子供も運転して
みたいと思いますし、お母さんが料理をしていれば、子供も料理を手伝いたいと
言うでしょう。
授業でも同様で、特に小学生くらいの生徒は、先生と同じように、黒板やホワイト
ボードに何かを書きたい(詳しく言うと、先生と同じように、自分の考えを伝える
手段として、黒板やホワイトボードを使ってみたい)ということがあります。
(特に活発な子供に顕著です)
そうした機会をチャンスと捉え、生徒の希望を受け入れてみましょう。
つまり、生徒に自由に板書させ、考えを説明してもらう、さらには、その間先生は
生徒の座っていた椅子に座り、生徒役と先生役を逆転してみるのです。
こうした授業における工夫も、学習内容を子供の印象に残すうえで、効果的な方法
の一つです。理由は主に3つあります。
- 子供は「先生気分」になっているので、自分の考えを何とか整理して、生徒役の先生に伝えよう、わかってもらおうと、本気で考えようとします。
- 受け身の姿勢から、突然能動的な姿勢への転換が求められるため、子供の気持ちにメリハリをつけることができます。
- 人に教えることが何より勉強になる、という重要なことを、子供にも少しずつ経験させることができます。
これら3つが重なり合って、子供の印象に残る授業にすることができます。
当然ですが、先生役となった生徒が、上手に先生役を全うできなくても問題ありません。
逆に、うまく説明ができた生徒には、目いっぱいほめた後に、生徒役の先生が、
先生役の生徒にさらに難しい質問をして、生徒を少し困らせるくらいがいいで
しょう。すると先生役の生徒は、質問に答えようと必死で考えます。先生として
振る舞っているのですから当然です。しかし、年上の生徒の難しい質問にはなかなか
答えられず詰まってしまいます。
そこが生徒役と先生役が再度交代し、普段の授業に戻る瞬間です。
その後、先生が生徒役として自ら質問した問題を、生徒に解説します。
こうすることで、難しい問題に対しても、生徒に本気で考えさせることができます
し、最終的には、先生としての立場も守ることができるのです。
私自身、この手法を実際に授業で使うことがありました。
生徒に問題を解いてもらい、その解答・考え方を説明してもらう際に、
生徒に先生が使っているホワイトボードに書いてもらい、私は生徒が座っていた机に
座り、先生役の生徒の説明を生徒役になり聞くのです。
すると生徒は、俄然やる気になり、先生のようにうまく説明しよう、綺麗に絵を
描こうとしながら、先生役を演じます。生徒が自分の考えを伝える訓練として非常に
有効だと感じていましたし、生徒本人もイキイキしながら先生役を全うしようとして
いたことが印象的です。
ただし、この方法を使うのは、生徒が自ら「ホワイトボード(黒板)に書きたい」と
言ってきたとき、もしくは、生徒に何かを説明してもらう時に、
「ホワイトボードに書いて説明してみる?」
と軽く質問してみて、生徒がその気になった時だけにしましょう。
特におとなしい生徒は、自分の席に座って先生の話を聴いていたい場合もあります。
そのような生徒にまで、こうした方法を強要してしまうと、余計な負担をかける
ことになってしまいます。
こうした工夫の1つ1つは、何が何でも授業で利用しなくてはならないことでは
なく、生徒と場面に合わせて、適宜選択して使えばいいのです。
生徒一人一人の性格に合わせて授業を進めることで、生徒に余計な負担をかける
ことがないよう注意しましょう。
次の記事
子供は『図画工作』が好き ~Level3:子供の特性の授業への生かし方~【第4章】【04節】 - 「記憶」ではなく「印象」に残す授業